法人設立から創業融資を受けるまでに必要な手続きと書類まとめ

会社をつくるか、個人のまま始めるか?

多くの起業家が悩むのは資金をどう確保するかです。

創業融資は、立ち上げ期の不安定さを乗り切るための強力な選択肢。

本記事では、創業融資の正しい理解から調達ルートの使い分け、法人設立のタイミング設計、審査に通るための準備、そして必要書類の作り方まで、行動に直結する形で丁寧に解説します。

創業融資の基本を正しく理解する

創業融資は資金がないから諦める準備すれば実現できるに変える制度です。

まずは土台となる考え方を揃えましょう。

創業融資の定義と役割

創業融資とは、起業前後(一般に設立からおおむね数年以内)に、事業の開始・拡大に必要な資金を借り入れる公的・民間の仕組みです。

売上が安定する前の期間に、仕入・人件費・家賃・設備投資などを継続的に支払えるよう、資金の“橋渡し”を担います。

返済原資はあくまで将来のキャッシュフローであり、現実的な計画性がもっとも重視されます。

よくある誤解

「自己資金がゼロでも借りられる」という情報を見かけますが、実務では自己資金の蓄積が強い信用材料です。

金融機関は痛みを伴うコミットを確認したいからです。

また「返済不要」の表現は補助金・助成金の文脈で使われるもので、創業融資は原則として返済が必要です。

据置期間(元金返済を一定期間猶予)を使えば当面の負担は軽くなりますが、利息は発生します。

創業融資のメリット・デメリット

創業融資のメリットは、エクイティ(出資)と比べて意思決定の希薄化がないこと、補助制度や利子補給により金利負担が抑えられる可能性があることです。

一方、審査に時間を要する、計画の根拠が弱いと否決・減額されるといったデメリットもあります。したがって、着金希望日から逆算した準備が成功の分岐点になります。

調達ルートの全体像と使い分け

複数ルートの特徴を押さえると、無理のない組み合わせが見えてきます。

日本政策金融公庫の特徴

日本政策金融公庫(いわゆる「公庫」)は、創業間もない法人・個人事業主向けの代表的な借入窓口です。

原則として無担保・無保証のメニューがあり、創業時でもアプローチしやすいのが特長です。

面談では、経験・販路・売上根拠・資金使途・返済計画の整合性が確認されます。

信用保証協会付制度融資の特徴

自治体・金融機関・信用保証協会が連携する枠組みです。

金融機関は保証協会の保証を得て融資を実行し、自治体によっては利子補給や保証料補助があります。

審査は「金融機関」「保証協会」の二段階になるため、公庫よりも時間を要する傾向がありますが、地域施策との相性が良いと有利になります。

民間銀行のプロパー融資

保証協会を介さず、金融機関が自らリスクをとる融資です。

条件が合えばしなやかな対応が期待できますが、創業直後は実績不足でハードルが高めです。

売上推移や入出金の見える化(試算表・預金推移)が揃うと選択肢に入ってきます。

ケース別の使い分け

飲食店の出店や不動産賃貸業など設備投資が大きいケースでは、制度融資の長期資金が適合します。

一方、BtoBの受注が見込め、早期に売上が立つ事業なら公庫でスピード重視の調達を行い、のちに制度融資で増強する構成が現実的です。

スタートアップは補助金・出資・融資のミックスで資本効率を設計します。

法人設立と創業融資のタイミング設計

「いつ申し込むか」は結果を左右します。

登記・口座開設・申請の順番を整え、ムダな往復を減らしましょう。

会社設立前後どちらで申込む?メリット・デメリット

設立前申込は、開業初期費用の確保に向きますが、法人名義の見積・契約が不足しがちです。

設立後申込は、登記簿・法人口座・契約類が揃い、計画の実在性が示しやすくなりますが、時間を要します。

開店・ローンチ日から逆算し、必要書類の揃いやすさで決めると失敗が少なくなります。

開業届・定款・登記完了・法人銀行口座開設の順序

実務では以下の流れが基本です。

1.定款作成認証
2.登記申請
3.登記完了
4.法人印鑑・法人番号取得
5.法人銀行口座開設

個人事業で始める場合は以下の流れが基本です。

1.開業届
2.青色申告承認申請
3.屋号口座開設
4.必要に応じて法人成

上の順に進めます。融資申込のタイミングにより、どちらのルートでも整合のとれた書類一式を用意します。

スケジュールモデル(わかりやすい実行プラン)

創業融資は「着金希望日」から逆算して準備を始めるのがコツです。

ここでは、とにかく早く資金を確保したい方向けの最短ルート根拠を厚くして通過率を高めたい方向けの余裕ルート
の2パターンを、6〜10週間前からの具体的な動き方として示します。

最短ルート

着金までの時間を短縮する代わりに、登記・口座・見積・許認可の準備を同時並行で進めます。

段取りと抜け漏れ管理がカギになります。

週数(目安) やること ポイント
6〜8週間前 事業計画の骨子確定/主要見積の収集開始 見積は「資金使途」にひも付け、
金額根拠を明確にしておきます。
6〜7週間前 定款作成・認証 → 登記申請 定款・登記は後工程の身分証明。
早く着手するほど後が楽です。
5〜6週間前 法人番号取得/登記完了見込みの確認 登記事項証明書の取得予定日を
把握すると全体が回りやすくなります。
4〜5週間前 法人印鑑作成/法人口座申込 口座は着金口座になるため、
審査中に開設メドを必ず立てます。
4週間前 許認可の事前相談・必要書類の洗い出し 飲食・建設・旅館業などは
所管窓口に早めに照会しておきます。
3〜4週間前 日本政策金融公庫 or 制度融資へ申込・面談日確保 面談日程は先に押さえ、
提出書類は面談日から逆算して完成させます。
2〜3週間前 面談実施/追加資料対応 追加要請は48時間以内に提出が理想。
審査が止まらない工夫です。
1〜2週間前 契約・入金手続き 契約締結〜着金の実務日数を
金融機関に確認しておきます。

各行は「並行可能」。
たとえば登記と見積収集は同時に進めると、待ち時間が発生しません。

余裕ルート

面談の説得力を高めるために、受注・予約・テスト販売などの証跡を積み上げます。

審査では「数字の根拠」を示せるかが決め手になります。

週数(目安) やること ポイント
10〜9週間前 試験販売・プレ営業・モニター検証の企画 小さく売って実績(POS/請求/予約)
作る設計にします。
9〜8週間前 見積収集/販路先へのヒアリング・LOI取得 仕入・内装・システムの複数見積で
妥当性を担保します。
8〜7週間前 定款作成・認証 → 登記申請 設立前でもPoCや予約は進めて構いません。
並行化がコツです。
7〜6週間前 テスト結果のとりまとめ(CVR・単価・来客) 「市場規模→顧客数→単価→売上」の
因数分解で根拠を整理します。
6〜5週間前 法人口座申込/許認可の事前相談 証跡は面談用の資料集に
まとめておきます(見開きA3が見やすい)。
5〜4週間前 申込・面談日確保(公庫 or 制度融資) 成功事例の写し(注文書・請求書・予約台帳)を添付します。
4〜3週間前 面談/追加資料提出 受注証跡と資金繰り表の整合性をその場で
説明できる準備をします。
2〜1週間前 契約・入金手続き 据置期間の設定が返済初月の
資金繰り安定に効きます。

余裕ルートは「根拠を増やす週」が多く、結果として否決リスクを下げやすくなります。

審査に通るための核心ポイント

数字の説得力と証拠が通過率を押し上げます。

自己資金の見せ方

通帳で継続的に積み上がった残高を提示できると強い信用になります。

急な大口入金は「見せ金」と疑われることがあるため、由来(退職金・貯蓄・売却益など)を説明できる状態にします。

資本金と借入のバランスも論点です。

資本金が薄すぎると、返済耐性に疑義が生じがちです。

事業計画書の「根拠化」

売上予測は「市場規模 → ターゲット数 → 来店/成約率 → 客単価 → 月次売上」の因数分解で作り、
各ステップの根拠資料(統計、見積、予約表、LOI等)を添えます。

費用は見積書ベースで資金使途にひも付け、資金繰り表には据置期間・返済開始後の余剰キャッシュ(DSCRの簡易観点)を明示します。

信用情報・既存借入の整理

クレジット遅延、携帯端末の割賦延滞、税金・社会保険の滞納はマイナス評価です。
少額でも延滞は解消し、納税証明を揃えます。

既存のカードローン等は、返済計画に反映し隠さない姿勢が信頼に直結します。

面談で聞かれることと答え方

動機・経験・差別化・販路・リスク対応は定番の質問です。

想定外に売上が未達のときの代替策(費用圧縮、価格再設定、販売チャネルの追加)まで自分の言葉で説明できると、返済可能性の評価が上がります。

申込手順と必要書類のすべて

全体像を把握したうえで、書類を先回り準備すると審査がスムーズです。

申し込み~着金までの標準フロー

申込 → 面談・審査 → 稟議・決裁 → 契約 → 着金、という順序です。

制度融資は保証協会審査が加わるため、一般に公庫より時間がかかります。

着金希望日から逆算し、予約・面談日程の確保を前倒しします。

必要書類一覧と入手先

  • 創業計画書・事業計画書:公庫様式・自治体様式・独自様式のいずれか。公式サイトからダウンロードでき、計画の整合性を示す主要資料として扱われます。
  • 見積書・契約予定書類:内装・設備・システム・仕入など。資金使途の妥当性を裏づける根拠資料として必要です。
  • 許認可関連:飲食業、建設業、旅館業、古物商などは必須。所管庁の案内に従い、着手順序を誤らないようにします。
  • 物件賃貸借契約:店舗・オフィスの賃貸予定物件に関する契約・見積・図面。立地根拠の説明にも活用されます。
  • 登記事項証明書・定款(法人)、開業届(個人):事業の実在性・法的要件の確認に用います。

いずれの書類も、出典と日付が明確であることが信頼性につながります。

書類作成のコツ

事業計画書は読み手の順番に合わせます。

①市場・顧客

②商品・強み

③販売・運営

④数値(PL/CF)

⑤資金使途 ⑥返済原資の説明

上記の流れにすると伝わりやすくなります。

資金繰り表は12〜24か月を月次で作り、据置期間の終了月と返済開始月を明示します。

地域別・業種別の追加書類

飲食は保健所の手続き・図面、建設は経審・許可番号、不動産賃貸業は物件情報や賃貸借契約の見込み資料、宿泊・民泊は条例の適合確認など、業種の所管書類を早めに洗い出します。

日本政策金融公庫と制度融資を徹底比較

違いを押さえると、戦略的に併用できます。

担保・保証・利率・限度額・審査スピードの違い

比較項目 日本政策金融公庫 信用保証協会付制度融資
担保・保証 原則 無担保・無保証枠あり 信用保証協会が保証(保証料が発生)
利率の考え方 公的水準で相対的に低め 自治体の利子補給等で実質負担が下がる場合
限度額の目安 創業向けでもまとまった枠を用意 地域・メニューにより幅
(追加支援があることも)
審査スピード 比較的早い 金融機関+保証協会の二段階でやや長い
使いどころ 立ち上げ初期の運転資金確保 設備投資や長期資金・地域施策活用

スピード重視なら公庫長期・大型の設備資金や地域補助の活用は制度融資が相性良好です。

据置期間・返済期間・返済シミュレーションの考え方

据置期間は元金返済を猶予する仕組みで、開業直後の資金繰りを守る盾です。

シミュレーションでは、売上の感度分析(▲10%・▲20%)でも月次の手元資金が割れないかを確認します。

返済期間を資産の耐用年数や利益水準と整合させると、審査の納得性が高まります。

併用シナリオ

初期の内装・備品は制度融資の長期資金、運転資金は公庫で早期確保、といった組み合わせが現実的です。

将来、実績が積み上がればプロパー融資への切り替え・追加も検討できます。

比較表

上記の表に沿って、自社の優先順位(スピード/金利負担/上限額/手間)を点数化すると、最適解が見えやすくなります。

落ちないためのリスク管理と再申請戦略

否決は敗北ではなく要件の未充足です。埋めれば前に進めます。

否決・減額の典型原因

  • 自己資金の不足、売上根拠の弱さ、見積書と資金使途のズレ、信用情報の延滞や税・社保の未納などが主要因です。
  • 書類の整合性が崩れていると、追加ヒアリングで時間を失いがちです。

改善手順

  • 半年の預金推移で自己資金を積み上げ、テスト販売・事前予約・内示など確実性の高い受注証跡を添付します。
  • コスト構成は複数見積で妥当性を示し、納税証明・完納証明を整えます。これだけで通過率は確実に上がります。

追加融資・借り換え・協調融資の活用タイミング

開業後、計画どおりに回り始めた段階で、追加設備や運転資金の増強を狙います。

保証付とプロパーの協調、あるいは制度融資と公庫の組み合わせで、返済負担が過度に集中しないよう設計します。

専門家・公的支援の使い方

“第三者の目”は、審査を通す最大の近道です。

商工会議所・よろず支援拠点の無料相談の活かし方

計画の壁打ち、販路開拓、補助金・制度融資情報の収集に役立ちます。

無料ながら、審査で刺さる客観的な数値の整備まで伴走してくれることもあります。

税理士に依頼するメリット

事業計画書と資金繰り表の整合性チェック、面談での論点整理、会社設立〜会計体制の構築までワンストップで支援できます。

銀行・保証協会の“見られ方”を踏まえた修正ができるのが強みです。

行政書士・司法書士との連携

許認可が必要な業種では、手続きの順序・要件を外すと融資に影響します。

登記・許認可・賃貸契約のタイミングを連動させ、ムダなやり直しを避けます。

よくある質問

いくら借りられる?自己資金の何倍まで?

必要資金と返済可能性で決まります。

目安としては自己資金の2~3倍のレンジを想定しつつ、売上・粗利・固定費から返済原資が確実に出る金額に調整します。

面談では何を聞かれる?服装や持ち物は?

動機・経験・差別化・販路・未達時の代替策が中心。

服装は清潔感重視のビジネスカジュアルで十分です。

計画書、見積、許認可、通帳コピー、身分証などの原本・写しをセットで持参します。

開業前と設立後、どちらが有利?

どちらも可。開業前はスピード、設立後は書類の揃いやすさに利点があります。

着金日から逆算して選びましょう。

バーチャルオフィスや自宅でも通る?

可能性はありますが、業種・実態・許認可の要件しだいです。

物件用途や条例に抵触しないかを先に確認します。

赤字見込み/借金ありでも可能?

返済可能性が示せれば可能性は残ります。

既存借入は隠さず計画に織り込み、赤字期間も資金が割れない設計にしておきます。

着金までどれくらい?据置期間は?繰上返済は?

公庫は比較的早め、制度融資は二段階審査で長めが一般的です。

据置の有無・期間はメニュー次第。

繰上返済は可能でも、違約金や手数料の有無を事前確認しましょう。

まとめ

創業融資は、根拠のある計画・一貫した自己資金履歴・証拠に基づく売上見込みの3点が通過のカギです。

法人設立の順序と申請タイミングを設計し、必要書類を先回りで整えれば、着金までの道のりはシンプルになります。

迷ったら、公的窓口と専門家の“第三者視点”を借り、短期間で“通る計画”に磨き上げましょう。

税理士・代表取締役代表税理士
鈴木 慎吾

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