会社設立で依頼できる専門家は?手続きごとに解説

「会社設立=登記して終わり」ではありません。
とくに合同会社(LLC)は速く・安く設立できますが、定款の文言・払込証跡・届出の期日を外すと 後から高くつきます。
本記事は、はじめての方でも迷わないように、工程別の担当・必要書類・落とし穴を表で可視化しています。
自分で進める場合と専門家に任せる場合の違い、費用やスケジュール、よくある失敗と回避策ま でを一気に解説します。
会社設立の全体像と「専門家を使うべき工程」
合同会社の設立を簡単に順序で説明すると計画 → 定款 → 登記 → 税務・社保の届出 → 口座・運用という流れになります。
すべて自力でも可能ですが、定款・登記と期日管理は専門家の伴走で、 思わぬやり直しを防げます。
会社設立の主な工程と専門家の役割
会社設立では、定款の作成から税務・社会保険の届け出まで、複数の手続きが並行して発生します。
以下の表では、各工程ごとに「主な担当専門家」「必要書類」「注意点」をまとめています。
| 工程 | 担当専門家 | 主な書類・手続き | 注意点・よくあるミス |
|---|---|---|---|
| 定款作成・認証 (合同会社は認証不要) |
司法書士 | 定款(電子推奨)、 事業目的、資本金、社員情報 |
文言が不十分だと登記不可。紙定款は印紙代4万円が必要。 |
| 登記申請 (法務局) |
司法書士 | 登記申請書、就任承諾書、 払込証明書、代表社員印鑑届出書など |
添付書類の不備・通帳証跡の欠落で差し戻しのリスク。 |
| 税務届出 (税務署・都道府県) |
税理士 | 法人設立届出書、青色申告承認申請書、源泉所得税関係書類、消費税関係届出 | 青色・納付関係の期限遅れに注意。 インボイス登録漏れも多い。 |
| 社会保険・労働保険 | 社会保険労務士 | 健康・厚生年金新規適用届、雇用保険適用事業所設置届、就業規則 | 採用時に準備しないと適用漏れや助成金対象外の恐れ。 |
| 商標・ ドメイン |
弁理士・行政書士 | 商標出願書類、WHOIS登録情報 | 商号と類似のドメイン取得に注意。 競合と重複するケースも。 |
| 契約法務 | 弁護士 | 取引基本契約、 雇用契約、NDA(秘密保持契約) |
テンプレ流用による リスク条項の抜け漏れに注意。 |
合同会社は定款認証が不要でスピード感がありますが、登記の差し戻しは最も時間がかかります。
商号・目的・払込証跡の3点を先に固めておくと安全です。
専門家ごとの守備範囲・できること/できないこと
司法書士(定款・登記のプロ)
- できること:定款作成(電子定款化で印紙代0円)、登記申請一式、法務局対応
- 注意:税務・社保の届出は守備範囲外が原則。目的文言は許認可の要件も見据えて作成を。
税理士(税務・資金繰り・創業融資)
- できること:法人設立届、青色承認、源泉所得税関係、消費税、インボイス登録/月次決算・資金繰り/創業融資資料作成
- 注意:登記はできません。役員報酬は期首3か月以内に決定が原則。遅れると損金不算入リスク。
社会保険労務士(社会保険・労務管理)
- できること:健保・厚年の新規適用、労災・雇用保険、就業規則、助成金の労務要件整備
- 注意:採用前に準備が必要な助成金が多く、後追いでは対象外になりがち。
行政書士・弁理士・弁護士
(許認可・商標・契約法務)
- できること:許認可(建設・古物・宅建等)の要件チェック&申請、商標出願、契約レビュー。
- 注意:定款の目的文言に許認可用語を反映しないと、後で差し戻し。
手続きごとに誰へ依頼?—分担と費用の実務
定款作成・認証/登記申請(法務局)
- 合同会社は定款認証不要。ただし電子定款にしておくと将来の修正・共有が楽。
- 登記は登録免許税:資本金×0.7%(最低6万円)が目安。
- よくある失敗:「設立直前の入金→即出金」で見せ金扱い。通帳の表紙〜入出金履歴を 保存し、名義・日付・金額の一致を揃える。
税務署・都道府県税への届出/インボイス登録
- 設立直後〜3か月で青色申告承認、償却方法・棚卸資産評価方法などを提出。
- インボイスを使う予定があるなら早めの登録を。開始時期の判定を誤ると売上・仕入税額控除に影響。
年金事務所・労基署・ハローワーク
(社会・労働保険)
- 採用予定があるなら、雇用前に整備。36協定、就業規則(常時10人以上は届出)も検討。
- 助成金は“事前に必要書類が整っていること”が多い。社労士の早期関与が安全。
許認可・商標・契約
- 建設・宅建・古物などは事業目的の文言が足りないと許可不可。
- 商標・ドメインは同日横串チェック(法務局・J-PlatPat・レジストラ)。
よくある失敗と回避策

見せ金・払込証跡不足で登記や融資がNGに
失敗例:設立直前に知人から一時的に借りたお金を資本金として入金し、登記後すぐに出金。結果として「見せ金」と疑われ、金融機関の融資審査でマイナス評価になった例。
回避策:資本金は必ず発起人(社員)個人の口座 → 会社名義口座という流れを明確にしましょう。
その際、通帳は表紙・1〜2ページ・入出金明細をコピー保管。これが後日の融資審査や登記確認で“信頼の証拠”になります。
事業目的の不足で許認可差し戻し
失敗例:建設業を始めるつもりが、定款の目的に「建設工事一式」としか記載しておらず、建設業許可の申請で差し戻し。結果、工事の受注が数ヶ月遅れるという例。
回避策:許認可が必要な業種は行政書士に事前相談し、定款目的を「基幹事業+周辺業務+将来の拡張」までセットで記載するのが鉄則です。
例えば「建設工事一式」だけでなく「内装仕上工事業」「建築設計業務」なども盛り込むと、後々の追加申請を避けられます。
社保・税務の期日遅れで追徴や助成金対象外に
失敗例:設立後の社会保険加入を忘れて3ヶ月以上遅れ、結果として過去分の保険料をまとめて 追徴。さらに、創業助成金の対象外になってしまった例。
回避策:設立日からの30日・60日・90日ごとのガントチャートを作成し、誰がどの提出先にいつまでに出すのかを明記しましょう。
さらに、freeeやマネーフォワードのようなクラウド会計ソフトに期日アラートを設定しておけば、提出忘れのリスクをぐっと減らせます。
表で一目でわかる費用・期間の目安
初期費用の内訳(合同会社の目安)
| 項目 | 目安 | メモ |
|---|---|---|
| 登録 免許税 |
資本金×0.7% (最低6万円) |
端数処理 あり |
| 定款作成 | 0〜数万円 | 認証不要、 電子定款推奨 |
| 収入印紙 | 0円(電子定款) / 4万円(紙) |
電子で節約 |
| 印鑑 (実印・角印) |
5千〜2万円 | 電子印鑑併用可 |
| 専門家 報酬 |
5万〜15万円+ | 依頼範囲で変動 |
電子定款とするだけで印紙4万円が不要に。小規模設立ほど効くコスト削減です。
スケジュール
| モード | 期間目安 | 条件 |
|---|---|---|
| 超短期 | 5–7営業日 | 商号・目的確定/電子定款/即日申請 |
| 標準 | 2–3週間 | 払込・登記・口座開設を順番に実施 |
| ゆとり | 約1か月 | ロゴ・ドメイン・会計・規程も同時進行 |
専門家別の報酬相場レンジ(目安)
| 領域 | 相場(税別) | 代表的な内訳 |
|---|---|---|
| 司法書士 | 5万〜10万円 | 定款・登記一式、電子定款対応 |
| 税理士 | 0〜5万円(初期)+月次顧問 | 届出一式、月次、決算、インボイス |
| 社労士 | 2万〜8万円 | 社保新規、労保、就業規則(別途) |
| 行政書士 | 3万〜20万円 | 許認可の種類で大きく変動 |
専門家の選び方—比較軸とチェックリスト(表)
| 比較軸 | 見るポイント | 合格ラインの例 |
|---|---|---|
| 実績 | 業種・地域・件数 | 類似業種の設立・許認可の実績あり |
| レスポンス | 初回返信・見積速度 | 24–48時間以内の返信・明朗見積 |
| クラウド対応 | 会計・文書・電子契約 | freee/マネーフォワード/クラウドサイン対応 |
| 料金の透明性 | 着手・成功・実費の分解 | 追加費用の条件が明記 |
| 提案力 | 役員報酬・資金繰り・助成金 | 期日×証跡×数値で提案がある |
面談で聞くべき質問を抜粋しました。
- 目的文言は許認可も見据えてチェックしてくれますか?
- 役員報酬や消費税の判定・インボイスはいつ何を決めれば良い?
- 設立から90日までの提出スケジュール表は出してもらえますか?
FAQ

合同会社と株式会社、専門家費用はどちらが安い?
一般に合同会社のほうが安い(登録免許税の最低額:合同6万円/株式15万円+定款認証費用)。
ただし資金調達・採用・信用面で株式会社が有利なケースもあります。
一人社長でも社会保険は必要?いつから?
原則加入(適用事業所の条件に該当)。
採用予定がなくても、成立時点で手続きが必要な場合があります。
社労士に設立直後から相談を。
設立後すぐの融資は可能?何を準備?
日本政策金融公庫の創業融資などは実績ゼロでも可。
通帳の積立履歴、テスト販売や見積、損益・資金繰り表が鍵。
freeeや弥生だけで完結できる?どこから専門家?
クラウドで多くは進められますが、定款の目的・払込証跡・青色やインボイスの期日判断は落とし穴。
要所だけ専門家にピンポイント依頼が安全です。
まとめ
合同会社は速く・安く設立できますが、最後に差がつくのは「定款の文言」「払込の証跡」「届出の 期日」の3点です。
ここを外すと差し戻しや税務・社保の不利益で、結局高くつくことも少なくあり ません。
迷ったら、登記=司法書士/税務=税理士/社保=社労士の分担で、設立から90日までのガントチャートと提出先一覧を作るのが最短ルートです。














